Research

 国土の7割を占める森林生態系は、我が国を代表する自然環境です。中でも、森林と河川の移行帯(以下、森林-河川生態系)は、陸域と水域をまたぐ物質や生物の相互作用によって独自の生態系サービスを生み出しています。しかし、特にここ数十年の間に、大規模な伐採・人工林化とその後の管理放棄、あるいは林道・砂防堰堤の建設等の影響を受けて種の喪失や生態系機能の低下が著しいと指摘されています。

 このような問題の解決に貢献するべく、私は、森林-河川生態系のキーストーン種であり、かつ内水面の水産重要魚種であるサケ科魚類の保全に関する生態研究を行っています。また、サケ科魚類をはじめとする多様な生物群集を維持する森林-河川相互作用の理解と保全に関する研究を進めています。

 特に現在は、ハリガネムシ類(類線形動物門)という寄生虫が駆動する森林資源の輸送が河川生態系に与える影響についての研究を進めています。

在来サケ科魚類の保全生態学研究

生態学の基礎的な理論を活かして、在来サケ科魚類の保全・管理に関する研究を行っています。特に、隔離された小さな在来サケ科魚類個体群を対象として、(1) 遊漁の影響、(2) 土石流による個体群の局所的絶滅、(3) 属間交雑の影響、(4) 遺伝的劣化、(5) 河川内環境の多様化に関する実践的研究を行ってきました。

生態系間相互作用と生態系機能:寄生者が紡ぐ森林-河川生態系

渓流釣りなどでお馴染みのアマゴやイワナ(渓流魚)は、水生生物でありながら、森林から供給される陸生昆虫類に大きく依存して暮らしています。彼らは、陸生昆虫類の供給量に応じて水生昆虫群集を捕食し、その影響は河川の生態系機能(藻類生産・落葉分解過程)、あるいは羽化した水生昆虫を捕食する陸域の捕食者群集へのエネルギー補償にも影響することが実証されつつあります。 一方、陸生昆虫類はどのようにして、河川に供給されているのでしょうか?

このシンプルな疑問について、私たちはハリガネムシ類(類線形虫類)や一部の線虫類による宿主の行動操作(河川への飛び込み行動の生起)が、陸生昆虫類の河川への供給量を増大させていることを発見しました (Sato et al. CJZ 2008)。この発見をもとに、以下のような研究を進めています。

(1) 寄生者が駆動するエネルギー流の重要性 (Sato et al. Ecology 2011); (2) 寄生者が改変する森林-河川生態系 (Sato et al. Ecology Lett. 2012); (3) 寄生者が駆動するエネルギー流の普遍性(Sato et al. Oikos 2011); (4) 寄生者の種多様性の解明(Sato et al. Can. J. Zool. 2012; 研究継続中)

ハリガネムシ類が駆動するエネルギー流