NPO法人 流域環境保全ネットワーク
残された聖域

- 白神山地 -

カツラ(桂)の大木。この木にとって10年さえほんの一瞬のできごとかもしれない。
カツラ(桂)の大木。この木にとって10年さえほんの一瞬のできごとかもしれない。 [ 撮影 © 鹿野 雄一 ]
興味深げにこちらに近づいてきたカモシカの子ども。沢に水を飲みに来たのか。
興味深げにこちらに近づいてきたカモシカの子ども。沢に水を飲みに来たのか。 [ 撮影 © 鹿野 雄一 ]

白神山地は、秋田県と青森県の県境に広がる原生林で、UNESCOの世界自然遺産にも登録されています。その核心部の面積はおよそ170平方キロメートルにわたり、山の手線内の面積の約3倍にあたります。原生林にはブナをはじめとして、サワグルミ・ミズナラ・カツラなどの大木がそのままの姿で残っています。

日本では他に屋久島や知床半島などが世界自然遺産に登録されていますが、それらの中でも白神山地がもっとも原生の状態をとどめているように思われます。特に河川の状態はきわめて良好で、砂防ダムなどの人工構造物はほとんどありません。

原生林から流れる冷たく透き通った水には、イワナ・カジカ類・ハコネサンショウウオ・タゴガエル・アズマヒキガエルなどが生息しています。河原ではカモシカ、ノウサギ、カワネズミなどの哺乳類も頻繁に見られます。草本は、シラネアオイ・オオバキスミレなど、日本海側多雪気候に適応した種が数多く見られます。

イワナ調査のために約半年間、白神の原生林の中でテントを張って生活しましたが、それは筆舌に尽くしがたい貴重な経験でした。これ以上のすばらしい体験は今後一生できないのではないか、と思っているほどです。白神の森と生き物たちが、今後もずっと変わらずに命の営みを続けていくことを願ってやみません。

文: 鹿野 雄一

  • 参考文献
  • 鹿野雄一・鎌田直人 (2001) "白神山地のイワナ、その生態と資源量" 日経サイエンス32巻2号(通算364号):112-115
パーフェクトな原生林が生み出すたおやかな流れは、多様な生命を育んでいる。その水はどこまでも青く透き通っている。
パーフェクトな原生林が生み出すたおやかな流れは、多様な生命を育んでいる。その水はどこまでも青く透き通っている。(秋田県。許可を経て入山 ) [ 撮影 © 鹿野 雄一 ]