NPO法人 流域環境保全ネットワーク
淡水魚・汽水魚
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- ニッポンバラタナゴ -

飼育個体
飼育個体

学名: Rhodeus ocellatus kurumeus
別名:
分類: コイ目 コイ科 タナゴ亜科
分布: 大阪府・香川県のため池、九州北部の河川

生活史:ニッポンバラタナゴは生きた淡水二枚貝の鰓内に卵を産み込むタナゴ類の1種で日本固有亜種です。本亜種は主に池や河川でも流れの緩い止水域に生息しています。産卵期は4-7月で盛期は5月で、主にドブガイ属(Anodonta)貝類を利用しています(Nagata & Nakata 1988; Kitamura 2005)。子供は貝内で約1ヶ月かけて卵黄を吸収し成長しながら過ごした後、貝から夜に泳ぎ出ます(Kitamura et al. 2008)。泳ぎ出た稚魚は、岸近くの流れの緩やかな場所の水面で群れ作り、動物プランクトンを食べて成長します。体長が10 mmを超えると、緑藻などの植物を好んで食べるようになります。冬までに15 mmほど成長し越冬し、底でおとなしくしています。翌春に再び活動が活発となり成長の早い僅かな個体が30 mmほどになるとその年の初夏に産卵を開始しますが、ほとんどの個体はもう一年後の初春から産卵をし、一生を終えます。寿命は野外で長くて3年で、最大体サイズは45 mmほどです。

貝内での初期減耗:タナゴの子供にとって貝内は本当に安全か?貝は捕食者からタナゴを守ってくれるゆりかごの役割をしています。しかしタナゴが貝から吐き出されてしまうことと、貝内で死亡してしまうことがあります。特に、本亜種では、卵や発生初期の卵黄突起(写真)が完成してない個体ほど、そして産卵期初期ほど吐き出されやすくなっています。この理由は、卵黄突起が貝から吐き出されないために必要な形態であることと、産卵期初期の4月は水温が低く、子供の成長率は水温が高いほど高いことから、卵黄突起が完成するまで成長するのに時間がかかるためです。一方、貝内で死亡する理由は、酸素欠乏です。特に、発生後期の個体ほど、産卵期後期ほど、タナゴが多い貝内ほど、そして貝のサイズが大きいほど酸素欠乏しやすくなります。これは、発生後期ほどタナゴの酸素要求量が大きくなること、産卵期後期で水温が高くなるほどため池の水に溶けている酸素の濃度が低くなること、タナゴ同士が同じ貝内の酸素を取り合うこと、大きな貝ほど酸素要求量が大きくなるからです。結局、子供の生存率の最も高い時期である5月が産卵盛期になっているのは、そのためだと考えられています(Kitamura 2005)。

雌の産卵母貝の利用の仕方:タナゴが産卵に利用する貝の鰓は、左右に2枚ずつ計4枚あります。本亜種は主に左右の内側の鰓を利用しています。ドブガイ属貝類は雌雄異体で、雌の外側の鰓に貝の幼生を保育します。貝の幼生は、外鰓に産み込まれたタナゴを死亡されるため、タナゴが内鰓を利用するのではないかと考えられています(Kitamura 2006a)。一方、一枚の鰓内に対しても利用の仕方があります。雌は産卵期になると産卵管を伸長させ、産卵管を貝の出水管に挿入して鰓内に卵を産み付けます。産卵管の長さは産み込まれる卵の鰓内の水路の位置を決めます。産卵期初期は産卵する時の産卵管の長さも比較的短く(約20 mm)、貝の水管側近くの鰓の水路に卵を産み込みますが、産卵期が進むにつれ産卵時の産卵管の長さも長くなり、貝の水管側より奥の鰓の水路に卵を産み込むようになります。これは貝の水管側近くの鰓の水路が、タナゴの子供が混み合ってくるので、それを避けてより混み合っていない奥の鰓の水路へ産み込もうしていると考えられています(Kitamura 2006b)。この様に本亜種の雌は、卵を産み込む鰓と鰓の水路を状況に応じてうまく利用することで、自身の子の生存率を上げようとしています。

他の生態:卵サイズは3.5 mm3で、卵形は電球の様な形をしています。

生息地と個体群の現状:本亜種は琵琶湖以西の本州・四国・九州に広く分布していましたが、国外外来魚で亜種のタイリクバラタナゴとの交雑、およびブラックバスやブルーギルの捕食、ため池の消失や河川環境の悪化により、絶滅の危機に瀕しています(Kawamura et al. 2000; 鬼倉,2006)。また各個体群の遺伝的多様性は、ため池個体群(大阪・香川)は河川個体群(九州)より低くなっています(Kawamura et al. 2001)。

保全対策と活動:大阪や香川個体群では、地元保全団体による活動が盛んで、池を干すことで軟泥の除去による環境の改善と外来種駆除を行い、その後本亜種の放流を行って生息地を増やしています(NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会)。

分類:ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴとの形態的な違いは、腹鰭の白色光沢帯の有無で良く判断されますが(ニッポンバラタナゴは白色帯が無い)、ニッポンバラタナゴの九州個体群は僅かに白色帯が現れることがあります(長田,1997)。正確に区別するにはDNAを用いるしかありません。

レッドデータ:絶滅危惧IA類(CR)

文: 北村 淳一

  • 参考文献
  • Kitamura J.(2005) "Factors affecting seasonal mortality of rosy bitterling (Rhodeus ocellatus kurumeus) embryos on the gills of their host mussel" Population Ecology 47: 41-51
  • Kitamura J.(2006) "Adaptive spatial utilization of host mussels by female rosy bitterling, Rhodeus ocellatus kurumeus." Journal of Fish Biology 69: 263-271
  • Kitamura J. Inoue T & Nagata Y(2008) "Timing of juvenile emergence from host mussels in the Japanese rosy bitterling, Rhodeus ocellatus kurumeus." Ichthyological Reserarch 55: 386-388
  • Kitamura J.(2006) "Seasonal change in spatial utilization of host mussels by female rosy bitterling, Rhodeus ocellatus kurumeus." Journal of Fish Biology 68: 594-607
  • Kawamura K.(2005) "Low genetic variation and inbreeding depression in small isolated population of the Japanese rosy bitterling, Rhodeus ocellatus kurumeus." Zoological Science 22: 517–524.
  • Kawamura K. Nagata Y. Ohtaka H. Kanoh Y & Kitamura J.(2001) "Genetic diversity in the Japanese rosy bitterling, Rhodeus ocellatus kurumeus (Cyprinidae)." Ichthyological Reserarch 48:369-378
  • Kawamura, K., T. Ueda, R. Arai, Y. Nagata, K. Saitoh, H. Ohtaka and Y. Kanoh.(2001b) "Genetic introgression by the rose bitterling, Rhodeus ocellatus ocellatus, into the Japanese rose bitterling, R. o. kurumeus (Teleostei: Cyprinidae)." Zoological Science 18: 1027–1039.
  • 三宅琢也・中島淳・鬼倉徳雄・古丸明・河村功一(2008) "ミトコンドリアDNAと形態から見た九州地方におけるニッポンバラタナゴの分布の現状" 日本水産学会誌74
  • 三宅琢也・河村功一・細谷和海・岡崎登志夫・北川忠生(2007) "奈良県内で確認されたニッポンバラタナゴ" 魚類学雑誌54: 139-148
  • 長田芳和(1997) "ニッポンバラタナゴ" よみがえれ日本産淡水魚ー日本の希少淡水魚の現状と系統保存
  • 鬼倉徳雄・中島 淳・江口勝久・乾 隆帝・比嘉枝利子・三宅琢也・河村功一・松井誠一・及川 信(2006) "多々良川水系におけるタナゴ類の分布域の推移とタナゴ類・二枚貝の生息に及ぼす都市化の影響" 水環境学会誌 29:837-842