NPO法人 流域環境保全ネットワーク
残された聖域

- 九州 北川 -

感潮域のワンド
感潮域のワンド(宮崎県延岡市 2006.6.26 ) [ 撮影 © 中島 淳 ]
アユカケ(カマキリ)
アユカケ(カマキリ)(宮崎県北川町 2005.7.7 ) [ 撮影 © 中島 淳 ]

北川は宮崎県北部に位置する流路延長51kmの川です。一級河川五ヶ瀬川水系の支流とされていますが、河口でつながっているだけで実際にはほぼ独立した川といえます。北川には上流にダムがありますが、河口堰などはなく、河口から約8 km上流まで潮の干満の影響を受ける感潮域となっています。九州では潮の影響を防ぐために立派な河口堰のある川が多く、海から中流域まで一切の堰がないという川はほとんどありません。そのため、北川は九州ではほぼ完全に失われてしまった“川と海のつながり”という原風景を今に残す貴重な川といえます。

北川ではこれまで165種の魚類が記録されています。これは本土では高知県四万十川に匹敵する種数です。北川の魚類相の特徴として海と川を行き来する回遊魚や、感潮域を好む汽水魚の種数が多いことが挙げられます。この中には、アユカケやアカメ、タナゴモドキ、チワラスボ、シロウオ、イドミミズハゼ、ヒモハゼ、クボハゼ、チクゼンハゼといった多くの希少種が含まれます。北川に棲息する魚種数が多い理由として、約8 kmもの長い自然感潮域が存在すること、多くのワンド環境が残存すること、さらに流れの速い瀬や深い淵、泥干潟や礫干潟、コアマモの群落といった多様な環境構造を有することが大きいと考えられます。

北川には多くの深い淵がありますが、その中で中流域にある水深10m近い大きな淵にはじめて潜ったときの光景は忘れられません。流れのあたる岩壁には無数のアユやボウズハゼ、ヒラテテナガエビがついており、大岩の間からは巨大なカワアナゴやモクズガニが何匹も顔をのぞかせていました。水面直下にはカワムツやオイカワが群れをなして泳いでおり、その群れを数匹のギンガメアジが狙っています。川底にはコイやカマツカ、ナマズが悠然と泳いでおり、その上をシマイサキやスズキ、ボラがフラフラと通過していきます。ふと気づけばウグイの大群が行く手をさえぎり、その中には大きなサクラマスもみられました。自由に海と川を行き来が出来る場所では、普段汽水魚と思っている魚たちが純淡水魚類と普通に共存していることを知りました。

現在、河川管理者である国土交通省は魚の上りやすい川づくりも目指しています。魚が川を上りたいときに上ることができ、また下りたいときには自由に下ることができる、そんな当たり前の川が日本中どこにでもみられる日はまた来るのでしょうか。

文: 中島 淳

  • 参考文献
  • Onikura N., Nakajima J., Nishida T., Inui R., Eguchi K., Nakatani M., Oikawa S. (2009) "Spawning sites of Eleotris acanthopoma (Perciformes: Eleotridae) in the Kitagawa and Sumiegawa rivers, Kyushu Island, Japan" Ichthyological Research 59: in press.
  • 江口勝久・中島 淳・西田高志・乾 隆帝・中谷祐也・鬼倉徳雄・及川 信 (2008) "宮崎県北川の魚類相" 九州大学農学部学芸雑誌 63: 15-26
中流域
中流域(宮崎県北川町 2006.3.30 ) [ 撮影 © 中島 淳 ]