- 別寒辺牛湿原 -

湿原内を流れる別寒辺牛川の河口に位置する厚岸湖.浅瀬にはアマモが密生している.(北海道厚岸町 2003.6.26 ) [ 撮影 © 久米 学 ]

別寒辺牛川中流部.広大な湿原の中を緩やかに流れている.(北海道厚岸町 2007.6.18 ) [ 撮影 © 久米 学 ]
「北海道の湿原と言えば?」と言われたら,どこを思い浮かべるでしょうか?大半の方は,釧路湿原を思い浮かべるのではないでしょうか?でも,北海道にはとてもたくさんの湿原が存在しています.ここでは,その中の1つ,別寒辺牛湿原を紹介します.
北海道東部の厚岸町にあるこの湿原は,1993年にラムサール条約に登録されています.湿原内には,ほとんど人工工作物がなく,ありのままの姿を残した希少な場所といえます.また,シンボル的な存在であるタンチョウをはじめ,イトウ,カワシンジュガイ,アッケシソウ(網走などではサンゴソウと呼ばれていますが,正式名称はアッケシソウです)などの希少な動植物が数多く生息している場所でもあります.
また,この湿原を流れる別寒辺牛川の河口域には,厚岸湖があります.厚岸湖では,カキやアサリの養殖が行われていたり,シラウオやニシンなどを対象にした漁業が行われています.また,厚岸湖や別寒辺牛湿原は,野鳥観察や釣り,カヌーツーリングに訪れる人も多く,観光資源としても重要な役割を担っています.すなわち,別寒辺牛湿原は,地元住民の生活にも欠かすことができない場所になっているのです.
私たちの調査では,別寒辺牛湿原には,37種類の淡水魚類が確認されました.その中には,イトウやヤチウグイなどの希少種を12種も含んでいます.現在,イトウが安定して生息している場所は,北海道内でも6ヶ所しかなく,まさに幻の魚と言っても過言ではありません.また,トゲウオ類の調査では,別寒辺牛川には,5種類ものトゲウオが共存していることがわかりました.同一水系内に5種類ものトゲウオが生息している場所は,世界的に見てもたいへん珍しく,注目されています.この別寒辺牛川で行われた研究の成果は,多くの研究者によって,続々と発表されています.
これまで紹介してきたように,別寒辺牛湿原が持つ広大な湿地帯は,そこに生息する生物たちの多様性を育んでいるのです.今後,開発が進んで,このような雄大な自然環境が失われるようなことがないことを願うばかりです.
文: 久米 学
- 参考文献
- 久米 学・北村武文 (2003) "同所域におけるイトヨ遺伝的2型の繁殖生態と生殖的隔離" トゲウオの自然史‐多様性の謎とその保全‐(後藤 晃・森 誠一編),北海道大学図書刊行会
- 久米 学 (2008) "北海道東部,厚岸湖・別寒辺牛川水系下流部における淡水魚類相" 陸水生物学報 23: 15-19
- 久米 学・鳥居千晴 (2009) "北海道東部の湿原性河川,別寒辺牛川支流大別川に生息する淡水魚類の春季・夏季における出現パターン" 伊豆沼・内沼研究報告 3: 65-72

