NPO法人 流域環境保全ネットワーク
水生生物の危機

- 国内移入によるかく乱 -

ヤマメとアマゴの雑種。側線部にのみアマゴの特徴である朱点がある。ヤマメ生息域にアマゴが人為的に放流されたため、交雑が起きたものと思われる。
ヤマメとアマゴの雑種。側線部にのみアマゴの特徴である朱点がある。ヤマメ生息域にアマゴが人為的に放流されたため、交雑が起きたものと思われる。(島根県 2004.4.23 ) [ 撮影 © 鹿野 雄一 ]
国内移入された某河川のオオサンショウウオ。国内移入種の問題は、国外からの外来種問題にもさらにまして微妙で複雑な様相を呈してくる。このオオサンショウウオのように、天然記念物の国内移入種となると、話はますますやっかいになる。
国内移入された某河川のオオサンショウウオ。国内移入種の問題は、国外からの外来種問題にもさらにまして微妙で複雑な様相を呈してくる。このオオサンショウウオのように、天然記念物の国内移入種となると、話はますますやっかいになる。(和歌山県 ) [ 撮影 © 鹿野 雄一 ]

自然分布範囲以外の地域または生態系に、(国外ではなく)国内の他の地域から人為的に生物が持ち込まれることがあります。このような移入を特に「国内移入」と呼びます。国内移入の場合、問題は、国外移入とはまた違った様相を呈しています。たとえば、国内にいる種であるために移入に対する精神的な障壁が無く、容易に移入されがちである、ということです。場合によっては、たとえば「メダカの放流イベント」のように、善意的な意図でもってして行われてしまうこともあります。これは、国内移入の問題が一般に周知されていないことが大きな原因でしょう。

それではいったい、国内移入の何が問題なのでしょうか? 大きな問題の一つは「遺伝的なかく乱」です。移入先に同じ種(亜種・品種)が生息していた場合、二者間で交雑が起きてしまい、その地域の遺伝的な固有性を失ってしまうのです。淡水生物のようにあまり移動しない生物は、各個体群が各地域に適応した遺伝子を持っています。しかし人為的に国内移入されてしまうと、交雑によってその遺伝子がかく乱されてしまいます。(もちろん、たとえばタイリクバラタナゴとニッポンバラタナゴのように、国外移入においても遺伝的かく乱は起こります。)

遺伝的かく乱の問題は、「生物多様性」の単位をどのスケールで考慮するのか、という問題でもあります。つまりどのレベルでその集団を一つの価値として認めるのか、ということです。たとえば、本州に生息するアユと沖縄に生息するアユは別のもので、それぞれ価値のあるものなのでしょうか? 答えはイエスです。私たちは、二者を別のものとみなし区別することでアユの多様性をより正確に把握できます(実際に後者には「リュウキュウアユ」という名前がつき、形態も多少違っています)。それでは次にもっと細かくして、琵琶湖にいるアユと木曽川にいるアユは区別するべきなのでしょうか? これもやはりイエスです。

このように次々とスケールを細かくして見ていくと、究極的には1個体1個体を多様性の価値として認めることになりますが、現実的には無理でしょう。かといって、種や亜種を多様性の単位とするのはあまりにも大雑把で、リアリティーを失っています。少なくとも、外見で違いのある品種や地域個体群のスケールで考えなければならないでしょう。このようにして見ると、国内移入種による遺伝的かく乱は、種スケールでの生物多様性にはあまり影響を与えませんが、より細かいスケールにおける生物多様性を大きく減損させることがわかります。

文: 鹿野 雄一